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平成30年4月の「今月の言葉」随想

人間はね、ただ嘘をつくんじゃないんです。
 何かを隠してつくんです。
  そして事実を直視しないようにする。   カズオ・イシグロ

 今月の掲示板の言葉は、イギリスの作家、カズオ・イシグロさんの言葉です。「嘘」ということについて語られています。仏教には在家の仏教徒が守るべき五戒という戒律があります。不殺生戒(殺生をしてはいけない)、不偸盗戒(盗んではいけない)、不邪淫戒(よこしまな交わりをしてはいけない)、不妄語戒(嘘をついてはいけない)、不飲酒戒(お酒を飲んではいけない)

 この五戒には様々な解釈がありますが、人はひとりで生きているのではなく、さまざまな関係性を生きています。その関係性を大切にするために定められたルールだと私は受け取っています。この五戒のなかに不妄語戒として、嘘をつくことがいましめられています。

 嘘をつくこと。私はどうだろうかと振り返ると、嘘をつくことが頻繁にあるように思います。出来ないのに出来ますと虚勢を張ったり、失敗したことを隠したり。なかでも子供に対しては、日常的に嘘をついているようです。本当は次の機会のことなど考えてもいないのに「また今度ね」といったり、忙しくないのに「いま、忙しいから」といったり。どうやら反射的に、自分を守ったり、自分の都合を通すために嘘をついているようです。

 イシグロさんの言葉に「何かを隠して」とありますが、この自分を守ろうとする心や、自分の都合を優先させる心を隠しているということを言っておられるのだと思います。隠そうとしているのは自己正当化のこころ、「私は悪くない」という心でもあるでしょう。掲示板の言葉は「そして事実を直視しないようにする」と続いています。嘘をついて、自分を正当化する心を隠して、そして都合の悪い事実を見ないようにする、ということでしょう。

 しかし、ここで大切なことに掲示板の言葉から気付かされます。それは、どれだけ自分の都合を通そうとする心を隠して、嘘をついても、嘘は嘘で、事実にはならないということです。亡くなられた先生ですが、平野修という先生は、

 「嘘は百万年かけて固めましても嘘です」

 という言葉を残されています。私たちは嘘をついて、どうにか自分の都合のいいように世界を変えていこうとします。しかし事実は変わらない。カズオ・イシグロさんの言葉には、「事実を直視する」ことの重要性が語られているのだと思います。

 私たちは「嘘をつかないでおこう」と心に決めても、状況次第、縁次第で自分の意志をこえて反射的に嘘をついてしまいます。嘘をつかないでおれることはもちろん大事ですが、それよりも、嘘をついた自分が、何を隠そうとしているかを知ること、そして嘘は事実にはならないことを知ることの方が重要です。嘘をつくとき、自分のことばかり優先して、他の人を騙して、ないがしろにします。そして、自分を守るどころか、事実の自分も大切にできません。思わずつく嘘。その嘘は他者との関係も、自分も損なうものだということを、私たちは知っておかなければなりません。 深草誓弥 平成30年4月

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