「宇宙からは 国境線は見えなかった」(毛利衛)
境界線を作るということは、敵を作り出すこと
5月、初夏のこの時期、毎年お寺の境内にツバメが姿を現します。ツバメは夏の時期を日本で過ごす「夏鳥」といわれる渡り鳥で、南方からはるばる海を越え繁殖のために日本列島へと飛来します。ツバメは田んぼの土やワラなどを口ばしで上手に編み込み、軒下や駐車場の天井付近などに巣を作り、田植えが一段落する頃になるとヒナが生まれます。大きな口を開け親鳥がせっせと餌を運び子育てをする姿が愛らしいです。それから秋ごろになると再び南へと飛び去っていきます。
渡り鳥が季節に合わせていのちのままに飛び交い、回遊魚が領海を超えて泳ぎ回るように、本来地球上の全ての生き物には国境などは関係ありません。宇宙から地球を眺めた毛利衛さんは、その様な生き物のいのちがもつ本来性に気が付かれたのだと思います。そして国境を作って争いを繰り返す人間の悲しさを嘆いておられます。
「宇宙から日本を再認識すると同時に、地球の「小ささ」にも思いが及びました。1周するのにわずか90分。地球を外から見れば空気も水もつながっている。そんな小さなところで、国同士が争うことはないんじゃないかと。」 『毛利衛、名言集』
「宇宙船地球号」と私たちの地球を一つの船と譬えられる様に、同じ船に乗っている仲間ならば毛利さんがおっしゃるように争う必要はないのかもしれません。人間は様々な人種や文化があり、言語や思想なども多種多様に別れ、国や地域によって違います。その様な世界の中で私たちは境界や分断を作り、対立が生じています。自分と友達は違いますし、家族であってもそれぞれの生き方です。しかし大事なのは、本来「共に生きている事実」に目を覚ますということではないでしょうか。これからどのように共生していけばいいのかではなく、そもそもいのちは現に深いところで共に生きあっている、そのことを毛利さんは訴えかかけているのだと思うのです。
以前ウクライナ軍に投降したロシア兵士が、ウクライナ住人の配慮に涙を流す写真記事を見たことがあります。写真には若いロシア兵が武器を手放した後、ウクライナ住人の配慮でパンと紅茶を受け取り、別の住人はロシアにいる家族と連絡を取ってくれたりと、降伏した兵士を排除するどころか迎え入れたという記事でした。ウクライナ住人の温もりや思いやりに触れることで兵士も心を開かれて、敵味方のない本来の世界へと目覚めていったのだと思います。
私たちの思いは、相手に対して自分勝手なイメージを作り上げ、そのイメージを押し付けていきます。そしてわが身の善し悪しの判断で、条件に適わなければ相手を敵とみなし排除しようとします。そして今月の言葉のように、自分と相手に合い入れない境界線や壁を作っていくのです。何が本当の善か悪かもわからないのに、自分のモノサシに合わせて他を裁いていくということです。その分かったつもりになっているその思いが、他者との関係を断絶しているのではないでしょうか。
ツバメが国境を越えて海を往来する姿や、敵味方を超えて同じ人として接していたウクライナ住人に感動を覚えるのは、本来私たちもそうありたいという切実な願いがあるからだと思います。そのことを思うと私たちすべてのいのちには境界線は無く、深いところでつながっているのだと思います。 令和4年5月 貢清春